
2025年10月9日、東京で開催された国際フォーラム「南モンゴル自由・独立運動の歴史と展望」において、ダライ・ラマ法王日本代表事務所代表 アリヤ博士 がご講演されました。モンゴルとチベットの深い歴史的・宗教的関係を踏まえ、両民族の精神的連帯、そして中国共産党体制下における現状と未来への展望について、慈悲と非暴力の教えに基づき力強いメッセージを述べられました。
以下に、当日の講演全文を掲載いたします。
モンゴル・チベットと未来への展望
アリヤ・ツェワン・ギャルポ (ダライ・ラマ法王日本代表部事務所代表)
2025年10月9日
こんにちは。タシデレ!サイン・バイノー!
ダライ・ラマ法王日本代表事務所の代表、アリヤです。宜しくお願いいたします。
本日、「南モンゴル自由・独立運動の歴史と展望」にご招待いただき、大変光栄に存じます。主催者の皆様に心より感謝申し上げます。
皆さんもご存知の通り、モンゴルとチベットは歴史的、政治的、宗教的、そして文化的に深い関係があります。7世紀から9世紀にかけて、チベットは軍事的に強大な国でした。しかし、仏教がインドから伝わると、チベットは戦争と侵略を止め、お釈迦様の教えに基づいた平和、愛、慈悲、非暴力を重んじる国へと変わり、宗教と政治が調和した平和的な国となりました。
13世紀、モンゴルのジンギス・カンとその子孫は、アジアとヨーロッパを支配しました。モンゴルは軍事国家であり、非常に強大な力を持っていました。モンゴルの皇帝フビライ・カンは1271年に元朝を立て、1279年には中国を支配しました。この時期、モンゴルは軍事的に強力で、チベットは精神的・宗教的に力強い存在でした。そのため、チベットとモンゴルの間には「師と施主(Priest and Patron)」という特別な関係が築かれました。チベットはモンゴルの軍事力に頼り、モンゴルはチベットの精神力に支えられるという形で、双方が相互に依存し、協力し合っていました。
この関係は、1247年にモンゴルの皇帝ゴダン・カンとチベットのラマ、サキャ・パンディタとの間で始まり、1254年にはフビライ・カンとパクパ師、1578年にはアルタン・カンとダライ・ラマ3世、さらに1642年にはグシュリ・カンとダライ・ラマ5世によって深まっていきました。その結果、モンゴルは仏教を受け入れ、次第に平和的な国へと変化していったのです。
しかし、現在の中共政権は、元朝が中国の王朝であったことを強調し、ジンギス・カンを中国人とするなど、根拠のないプロパガンダを流しています。しかし、このような主張には歴史的な事実に反する点が多くあります。
歴史的に見ると、1911年の辛亥革命により、中国は満州の清王朝の支配から解放され、建国を宣言し、共和制に移行しました。中華民国初代臨時大総統である孫文は、チベット、ネパール、モンゴルに共和国への加入を呼びかけましたが、いずれの国もその提案を受け入れませんでした。これは何を示しているかというと、中国は1644年から満州の清王朝の支配下にあり、267年後に独立を果たしたということ、そしてチベットとモンゴルは清王朝の影響を受けながらも独立を維持していたことを示しています。
そのため、モンゴルは1911年に独立を宣言し、ジェプツンダンバ・ホトクト8世を政治的・精神的指導者として任命しました。チベットもまた、ダライ・ラマ法王13世が1913年に独立を宣言し、国際社会にその立場を明確にしました。そして、同年1月にはモンゴルとチベットの間で相互承認条約が結ばれ、これが国際的にも認められた歴史的に重要な文書となりました。
ところが現在の中共政権は、元朝と清朝を中国の王朝だとする虚偽の歴史を広めています。これは間違った方向に進んでおり、我々はこれを強く非難し、歴史を正しく伝えていかなければなりません。歴史は非常に重要であり、歴史がなければ、その国や民族は存在し得ません。
チベット、南モンゴル、ウイグルは、それぞれ侵略されてから数十年が経ちます。チベットも侵略されてから75年も経っていますが、今もなお国際的な問題として取り上げられています。それは、我々には強い歴史、文明、言語、そして民族としてのアイデンティティがあるからです。真実と歴史は我々の側にあるからこそ、我々は強いのです。チベットとモンゴルの社会において、ダライ・ラマ法王とジェプツンダンバ・ホトクトは、古くから我々の指導者であり、その教えは今も受け継がれています。
今日ここに集まっている歴史家、学者、評論家、そしてサポーターの皆さん、ぜひ本当の歴史を討論し、強いメッセージを中共政権に送っていただきたいと思います。
今の中共政権は、チベット、南モンゴル、ウイグル、台湾、香港だけでなく、中国人、日本を含むインド太平洋地域、アジア、そして世界の平和にとって重大な妨げとなっています。これは、中国が中国人の支配下にあるのではなく、中国共産党の支配下にあるからです。ここで明確にしたいのは、我々は中国や中国人に反対しているのではなく、中国共産党の残虐で破壊的な政策に反対しているということです。
したがって、我々は団結し、まず最初に中国を共産党政権から解放する必要があります。中国が自由になれば、我々全体、そして世界の多くの問題が解決に向かうと信じています。
最後に、当事務所はダライ・ラマ法王の愛と慈悲、非暴力の教えに従い、自由、人権、民主主義、そして世界平和の実現に向けて尽力してまいります。本会議「南モンゴル自由・独立運動の歴史と展望」もその目標達成に向けて重要な一歩となり、中国人も含め、モンゴル、チベット、ウイグル、香港の兄弟姉妹に、一日でも早く自由と人権の尊重を享受できる日が来ることを願っております。
ご清聴ありがとうございました。


