国際社会における沈黙と少数民族問題――南モンゴルをめぐる構造的課題
近年、中国における少数民族政策は、国内問題の枠を超え、国際的な人権および文化多様性の観点から注目されている。とりわけ南モンゴルにおいては、モンゴル語教育の縮小や文化的慣習の制限が進行しているとの指摘が相次いでおり、その実態は国際社会においても重要な懸念材料となりつつある。
こうした中、国連の場において、中国側代表が南モンゴル出身者の発言に対し中止を求める圧力をかけたとされる事例は、看過し得ない意味を持つ。仮にこれが事実であるならば、それは特定の政治的主張に対する異議という次元を超え、少数民族が自己の状況について言及する機会そのものを制限しようとする行為と解釈しうる。結果として、南モンゴルで進行しているとされる言語と文化の変容過程が、国際的議論の場から排除される危険性をはらんでいる。
中国は長年にわたり、経済成長と対外影響力の拡大を背景に、外交・貿易分野における存在感を高めてきた。一方で、自国に対して批判的な見解や不都合な議論に対しては、経済的圧力や強硬な外交姿勢をもって抑制しようとする傾向も指摘されている。こうした行動様式は「戦狼外交」として広く知られ、国際的な言論空間や意思形成に影響を及ぼしている。
かつて国際社会の一部には、「経済発展は政治的自由化や制度的成熟をもたらす」との期待が存在した。しかし近年の情勢は、経済的発展と政治体制の柔軟化が必ずしも比例関係にないことを示している。むしろ、統制の強化や情報管理、対外的強硬姿勢の顕在化が同時に進行しており、その影響は南モンゴルのみならず、新疆ウイグル、チベットといった周縁地域にも及んでいる。
これらの地域における言語、宗教、歴史認識の変容は、単なる内政問題として処理するには限界がある。文化的権利は人権の重要な一部であり、その侵害は国際社会において継続的な検討を要する課題である。もし各国が経済的配慮や外交的計算から沈黙を続けるならば、それは現状の追認と受け取られ、不可逆的な既成事実を積み重ねる結果にもなりかねない。
こうした状況の中で、高市氏の姿勢が注目を集めている理由は、まさにそこにある。賛否は分かれたとしても、沈黙ではなく、明確な言葉によって問題を可視化した点に、その本質的意義が見出される。権威主義体制に対抗する有効な手段は、必ずしも武力ではない。勇気ある発言と事実に基づく訴えこそが、閉ざされた空間に亀裂を生み、未来を切り開く第一歩となるのである。
2025年12月2日
オルホノド・ダイチン(南モンゴルクリルタイ共同代表、モンゴル語雑誌「自由モンゴル」編集長)