ゴブルド・アルチャ: 南モンゴルのこれまでと現状 ―― 環境、人権と言語の問題 ――

10月9日、南モンゴルクリルタイ主催の奈良県での勉強会で当会幹事長のゴブロド・アルチャ博士が講演された。 戦前から現代まで、特に日本国と南モンゴルが深い結びつきを持った満洲時代について触れつつ、南モンゴルの歴史をまず述べました。そこでは、いわゆる日本の戦後歴史観では暗黒の時代だったように語られた戦前の時代が、むしろ、南モンゴルにおいては、民族意識の目覚めと近代化の始まりという明るい時代であったこと、それは日本敗戦後の中国共産党支配下では全く失われたことであることを述べました。
さらにアリチャ氏は、文化大革命時代の南モンゴルジェノサイドが、150万人のモンゴル人の中で数十万の犠牲を出したことを指摘し、このジェノサイドは、現代においても本質的には継続していることを批判しました。モンゴルでは今もハダ氏、フーチンフ氏をはじめとする人権運動家は弾圧、暴力を受け、環境は破壊され、遊牧という民族の生活習慣も禁止、さらには、母語モンゴル語教育まで廃絶されていることをアリチャ氏は指摘し、南モンゴルの実情を訴えて講演を終えました。

以下はゴブロド・アルチャ博士の公園原稿(三個までに)です。

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南モンゴルのこれまでと現状

―― 環境、人権と言語の問題 ――

ゴブルド・アルチャ

近代において、日本と深い関わりがあった地域の一つには、今500万人弱のモンゴル人が植民人口約2,500万人の漢人と共に暮らす内モンゴルがある。その時代の歴史について数多くの研究があり、よく知られているものの、その現状に関してはあまり知られていないのが現実である。

チベットとウイグルのように、中国領内に自治区域として組み込まれた内モンゴルは、1966年の文化大革命時代にはかつての日本との関わりが問題視されたこともあり、自治権を略奪され、知識人から一般人まで多くの人々が虐殺に遭われた。さらにモンゴル人の強制移住と大規模な乱開墾による草原の衰弱化、モンゴル語の使用禁止など、伝統文化がことごとく否定された。内モンゴルの現状はその文化大革命時代の状況とは驚くほど酷似しているのである。

例えば、内モンゴルの中・東部地域(シリンゴル、赤峰、通遼)においては647にのぼる開発拠点(2018年の統計)が当該地域のモンゴル人住民の放牧地あるいは農地を強制的な手段で奪い、不法な開発を行っている。これは内モンゴル全体の中で、ごく一部である。従って、放牧地・農地を奪われた放牧民・農民たちによる政府への陳情集団が警察に逮捕され、拘留所へ連行されることが最近では頻繫に発生している。

 また2020年に、中国政府は『国家統一編集教材使用実施方案』という教育政策を打ち出し、内モンゴル自治区内のモンゴル族小・中学校において中国語を中心に教育を実施することを決定した(2018年にはウイグル自治区内のモンゴル人学校では既に実施された)。具体的に、小学校ではモンゴル語の代わりに中国語を中心に授業を行い、中学校では「政治」「歴史」「音楽」等の科目を完全に中国語で実施し、2022年にかけて完成させるという内容だった。そして、今年の9月からモンゴル語で教育を行う全ての学校のモンゴル語による授業を廃止し、中国語に置き換えられた。モンゴル人の母語であるモンゴル語は週7コマから週1コマまで減らされる。このように、南モンゴルでは、2018年のウイグル自治区内のモンゴル語使用禁止と、内モンゴルでのモンゴル語の使用禁止は、南モンゴル全域のモンゴル人の母語による繋がりを断つことであり、さらには、南モンゴルとモンゴル国間の母語による紐帯が断ち切られ、民族の分断が余儀なくされる現状である。

 農牧地の強奪と乱開発、強制移住、そして母語の禁止などは、まさに文化大革命の時期にすべて行われたことの繰り返しであり、中国政府の国内の民族問題に対する姿勢はますます暴走している。さらに、同化政策と抑圧的な政治の実施はチベット、ウイグル、香港などの地域も同様な立場にある。

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